介護離職をどう防ぐ?
仕事を辞めずに親の介護と向き合う
お笑いコンビ・メイプル超合金の安藤なつさんと、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんの会話形式でわかりやすく「介護」のリアルと乗り切るコツをお送りします。
CHECK!
・介護離職はアナタのお金も心も脅かす
・働く人のための介護サポートを知る
・介護休業は介護体制を整えるために利用する
安藤なつ(以下、安藤):子どもがメインで親の介護をすることになると、やっぱり仕事は辞めなくちゃならないのでしょうか? 105歳まで生きることを考えると私だったら、仕事と介護を一緒にやりたいです!
太田差惠子(以下、太田):その考え方が正しいと私は思っています。みなさん、仕事を辞めないと介護する時間がない!と考えがちですが、そんなことはありませんよ。
安藤:そのためにサービスや制度のことを理解してどんどん活用するんですよね。
太田:そうです。辞めなくてもできる介護の方法はあります。それに、介護のためにと仕事を辞めてしまうと、子どもの収入はゼロになりますよね。たとえば、年収450万円で働いていた人が、4年間介護の間を離職すると、1800万円の損失ということになります。
安藤:1800万円! それは大きい!
太田:介護が終わったとしても、子ども自身の老後もすぐそこに見えていて、自分にも介護が必要になるときが来るかもしれません。
安藤:そう考えると、急いで辞める決断をするのは、危険ですね。
太田:介護のために仕事を辞めると、経済的な打撃があるということは想像つきますが、実は「精神的」「肉体的」にもダメージがあるんです。
安藤:えっ! 介護に専念するから体力的には楽なのでは?
太田:介護を機に仕事を辞めた人の負担感のデータを見てみると、精神面では約66%、肉体面では約63%の人が、負担が増したと回答しています。だからこそ、仕事と介護の両立を目指すことは大事なんです。
安藤:えええ!! そんなに。お金に困るのは想像できるけど、心も体も負担が増えるなんて、意外でした。
安藤:介護のために仕事を辞めると、えらいことになる!というのはわかりました。でも、介護のために休んだり、遅刻したりが増えると、仕事でかかわる周りの人たちに迷惑をかけそうな気が……。
太田:はい。会社に迷惑をかけるからと、離職を決意する人もいるようです。でも、仕事をサボっているわけではないですから、まずは上司に相談してみるなど、とにかく介護についてオープンにすることが大切です。
安藤:介護って、ネガティブなイメージがあるから、人に言いにくい気がしますが、思い切ってオープンにすることが大切なんですね。
太田:それに、日本では、介護を理由に仕事を休めることが法律で定められているんですよ。
安藤:法律で決まっているんですか! 知らなかった!
太田:絶対覚えておいて欲しい制度として、主に2つの制度があります。1つ目は「介護休業制度」。介護対象者1人につき、通算93日までお休みすることができます。原則、2週間前までに書面などで勤務先に申請することで、使えるようになります。93日連続で休むこともできるし、上限3回まで分けて使うこともできます。
2つ目は「介護休暇制度」で、介護対象者が1人なら、年5日、2人以上なら、年10日まで取ることができます。介護休暇は、会社に「休ませてください!」と申し出れば使うことができ、時間単位で取ることもできます。
どちらも、パートやアルバイトも含め、日々雇用を除くほとんどのケースで使うことができます。
安藤:介護で仕事を休める法律。なんだか心強い!
太田:そうですよね。その法律は、「育児・介護休業法」として定められていて、時短勤務や残業の免除、フレックスタイム制の導入など、さまざまな働き方をしながら、仕事と介護を両立できるように、国も会社も応援しています。
その他介護で仕事を休める法律
・時短勤務(1日6時間勤務など)
・フレックスタイム制
・時差出勤
・残業の免除 など……
安藤:育児も介護も同じ法律で、仕事との両立を目指せるように決まっているなんて知らなかったです。
太田:会社によっては、法律以上に介護のための制度を充実させているところもあります。一度、自分が働いている会社の制度を確認してみましょう。おトクな制度があるかもしれません。
たとえば、会社の福利厚生で介護の補助金を出してくれるところや、遠距離介護の交通費を補助してくれるところもあります。
黙っていないで、会社に報告して、可能な限りおトクな情報を入手するようにしてください。
安藤:介護でお休みするのも、出産や育児でお休みすることみたいに普通になるといいですよね。でも、93日間の介護休業って、なんとなく、短いような気がしますが……。
太田:確かに、とても93日で介護が終わるとは考えにくいです。でも、介護休業の本来の使い方は、「自分が介護をするための休暇」というわけではなく、親の介護をマネジメントする期間に使うことが本来の目的です。
安藤:「マネジメント」! 前に出てきたワードですね。 たしか、身の回りのお世話をすることではなく、 適切なサービスを受けられるよう環境を整えていくことでした。
太田:そうです! 覚えてくれましたね! たとえば、93日のお休みを3回に分けて使えるのですから、1回目は、介護サービスに慣れるまで様子を見守るために使って、2回目は、施設介護を検討するときに一緒に施設探しをする。3回目は、看とりのとき、最期のときは、そばにいられるようにするなど、それぞれ1カ月間ずつ休むようにするなどの使い方もあります。
介護がはじまった!と慌てて、身の回りのお世話のために93日間がっつりお休みして、つきっきりで介護をしても、親の状態がよくなるわけではありません。長期間の介護を続けられるように、体制を整えたり、適宜調整したりするときに使うほうが、有効な使い方だと思います。
安藤:介護休業の使い方でも、使い方を間違えるとせっかくのお休みが無駄になってしまうから、気をつけるようにしないと。はじめに理解しておくってやっぱり大切ですね。
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介護については「自分が何とかしなければ」と孤独になってしまいがち。
でも実はプロに頼ったり、悩みをシェアすることで最新の情報が得られたり、心や金銭的な負担が軽くなることも。ひとりで抱えこまず、できるだけ周りを頼りたいものですね。
安藤なつ(メイプル超合金)
1981年1月31日生まれ。東京都出身。2012年に相方カズレーザーと「メイプル超合金」を結成。ツッコミ担当。2015年M-1グランプリ決勝進出後、バラエティを中心に女優としても活躍中。介護職に携わっていた年数はボランティアも含めると約20年。ヘルパー2級(介護職員初任者研修)の資格を持つ。2023年介護福祉士の国家試験に合格。厚生労働省の補助事業『GO!GO!KAI-GO プロジェクト』の副団長を務める。
太田差惠子(介護・暮らしジャーナリスト)
京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材 。「遠距離介護」「高齢者施設 」「仕事と介護の両立」などをテーマに執筆や講演を行っている。AFP(日本FP協会認定)資格を持ち、「介護とお金」についても詳しい。「Yahoo! ニュース エキスパート」オーサーなどでも活躍中。『親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと第3版』(翔泳社)など著書多数。
※本記事の情報は2024年6月現在のものです。法令や条例等の改正などにより、内容が変更になる場合があります。
著=安藤なつ(メイプル超合金)、太田差惠子/『知っトク介護 弱った親と自分を守るお金とおトクなサービス超入門 第2版』