雑誌『レタスクラブ』で連載中の山崎ナオコーラさんのエッセイ「考えごとで家事を楽しむ」をレタスクラブニュースでも特別公開!

家事に仕事に子育てに大忙しの毎日。実体験に基づいた言葉で語られるからこその共感や、生活を楽しむためのヒントが隠されています。

今回は、vol.10 レシピを「読む」をお届けします。

レシピを「読む」 vol.10「考えごとで家事を楽しむ」 山崎ナオコーラのエッセイ 画像(1/1) 山崎ナオコーラさんのエッセイを連載中! 今回はvol.10 レシピを「読む」をお届けします

 この『レタスクラブ』の中もそうだが、世の中には「料理の作り方」についての文章があふれている。

 小説やエッセイを、文章として楽しんでいる人は多いと思う。「へえ、恋をこういう言葉で表現するのか。うっとりするなあ」「友だちもいいよなあ。微妙な関係を、作家はこういう風に文章に落とすのね」と感動しながら読む。

 ときには、「この文章は、私のためのものだ。私にしかわからないフレーズだ」と感じる文章に出会う。読者としては、文章に出会って、「私だ!」と思えることはダントツで気分がいい。作家としても、「私のための言葉だ」「私のことが書いてある」という感想は一番嬉しい。

 人間には言葉があって、そのおかげで感動できたり、悩みを整理できたり、人と繋がれたり、たくさんの楽しいことが起こる。

 それで、世の中では、小説やエッセイ、それから、歌や詩などの言語芸術がさかんに作られたり読まれたりしている。でも、べつに、いわゆる「芸術」じゃなくったって、人は感動する。これは多くの人に賛同してもらえるのでは、と想像しているのだが、私はチラシや看板のフレーズにも感動する。ツイッターで見かけたちょっとした言い回し、ネットニュースの変なフレーズに救われることもある。

 どんなところにも、感動するフレーズは隠れている。

 もちろん、レシピも文章として楽しめる。

 私が最初に「面白い」と思ったのは、小林カツ代さんの料理本『小林カツ代の人気おかず』に収められた「鶏の照り焼き」の最終工程で、「ピカッとするまで煮からめる」というフレーズに出会ったときだった。

「え?『ピカッ』って何?」

 と笑ってしまった。レシピというのは、「大さじ何杯入れる」「弱火で何分間煮る」といった誰にでも通じるような無味乾燥な説明でひたすら構成されている、と思い込んでいたので、「ピカッ」と感じるまでやる、という抽象的な指示を出されるとは想像だにしていなかった。

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