レシピを「読む」 vol.10「考えごとで家事を楽しむ」 山崎ナオコーラのエッセイ

#くらし 


 それで私は、「肉が『ピカッ』としたかどうかなんて、人それぞれの感じ方だし、わかるわけがない。まあ、適当にやるしかないか」と半信半疑でキッチンに立った。もも肉を焼いてから一度取り出し、フライパンを拭いてからタレを注ぎ、再び肉を入れてからめていたら、

「あっ」

 と思った。確かに、「ピカッ」とした、と感じた。

 そのとき、心に温かなものが広がった。

「私、小林カツ代さんの言うところの『ピカッ』がわかった。『ピカッとするまで煮からめる』というフレーズを個人的に味わえた」と感動した。

 そうか、レシピって、わりと自由なものだったのだな。

 レシピには、料理人の、調理器具へのスタンス、人への接し方、食材への思いが、滲む。キッチンの環境は読者によりけりだから、「何分」「何杯」よりも伝わる言葉がある。文章なのだから、どんな書き方をしたっていいのだ。

 文章には、必ず人柄が滲み出る。インターネットサイトで素人の方が書いたレシピを読んでいても、「わあ、こんなワクワクするような書き方をするか。ひとりご飯を楽しんでいる人なんだなあ」「この人、雑な性格なんだなあ。気楽にキッチンに立てるからいいなあ。クスクス」といった、ただ作り方を説明してもらったというだけではない、「私、他人に出会った」という喜びが湧くことがある。

 それに気がついてからは、たとえ作るつもりがなくても、レシピの文章を楽しめるようになった。

 小説やエッセイだけではないのだ。レシピでだって、読書ができる。

文=山崎ナオコーラ イラスト=ちえちひろ

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Information

■著者:山崎ナオコーラ
1978年福岡県生まれ。埼玉県育ち。2004年『人のセックスを笑うな』で作家デビュー。エッセイ集に『指先からソーダ』『かわいい夫』『母ではなくて、親になる』などがある。目標は「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。初めての絵本『かわいいおとうさん』(絵ささめやゆき、こぐま社)も刊行。
山崎ナオコーラさんのTwitter

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