危機は「回避」か「対応」か、あなたならどっちを選ぶ? 男女のミゾを科学する(4)
「ちゃんと言ったのに!」
「悩みを相談したのに冷たい!」
夫と話すとイライラするのは、男女間で脳の使い方に差があるからだった!?
ベストセラー『妻のトリセツ』で話題の人工知能研究者・黒川伊保子さんが、夫婦間で発生しがちな「男女のミゾ」の発生機序をやさしく紐解く『コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する』(PHP新書)。
夫婦間、家族間、友人同士や恋人同士、あるいは職場の同僚間でも、今日から使える対話のルールが多数紹介されています。
21世紀随一のコミュニケーションの教科書から、一部抜粋したものを全8回でお届けします。今回は第4回目です。
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性差に目をつぶれば、コミュニケーション・ストレスはなくならない
――男女の脳は違うのか、違わないのか。
この命題への正式な回答は、「機能的には違わないが、とっさの使い方が真逆になることがある」である。
ただし、とっさの使い方の違いに、コミュニケーション・ストレスの要因のほぼすべてが集約されていると言っても過言ではない。
男女の脳は違わないなんて言っていると、男女のミゾは永久に埋められない。
感性とは、「生き残るため」の脳の羅針盤である
この本では、「感性」を、「脳が、無意識のうちに、とっさに使う神経回路特性」と定義づける。「脳が緊張したとき、生き残るためにとる手段」である。
その「とっさの使い方」を人工知能の手法に基づいて追求していくと、ヒトが脳の中に、「二つの感性モデル」を内在しているのがわかる。
逆に言えば、感性には二軸しかないのである。
この世には、千差万別の感性があるわけじゃない。二つの感性モデルの使用比率や、使用機会の違いによって、バリエーションが生じている。
ただし、五感から入ってくる情報のレンジ(適正領域)には、多彩なバリエーションがある。
砂漠に生まれた者は、テラコッタ(赤茶色系)の色を、瞬時に何十種類も見分けるという。日本人には、どこまでも同じに見える砂漠の風景が、彼らには違って見えるのだ。何の変哲もない砂漠のど真ん中で、砂漠の民たちは待ち合わせをする。異国の民にはとんとわからなくても、彼らには、特別な風景に見える場所なのだろう。
逆に、緑豊かな海洋国に生まれた日本人は、青や緑の色を瞬時に何十種類も見分けている。私たちは漁師でなくても潮目を読み、雑木林の木々の名を知らなくても、それらが別々の種類であることは瞬時にわかる。おそらく、砂漠の民は、日本人の「緑系や青系の色名の多さ」にあきれるに違いない。
日本人から見れば砂漠の民は「テラコッタ色を見分ける天才」で、逆は「緑色を見分ける天才」に見えるのに違いない。
同様に、音楽家の家で育った子どもたちは音を聞き分け、芸能の家で育った子どもたちは、芸の筋を見分ける。料理上手な母親に育てられれば、料理の筋がよくなり、支配的な親の下で育てば、ヒトの顔色を窺(うかが)う天才になる。
それは、感性への入力情報のレンジの差である。感度は、「その人が生きる環境において、生きるために必要」とされる領域に、突出して高くなる。
そういう意味では、ここに生き残っている以上、誰でも、何らかの「感じる天才」なのである。それが、お金を生む領域か、そうでないかの差はあるにせよ。
一般に、芸術の領域に使える入力レンジを持つ人だけを、人は「感性が豊か」というが、それは違う。テロ多発地帯で生き残る感性も、日がな一日のんびり暮らせる感性も、すべて感性であり、本来ならば「ある特定の環境で、生き残る才能の高い人」すべてを、「感性豊か」というべきだ。
なぜなら、感性は、「生き残るため」に用意された、脳の羅針盤だから。
感性の基本回路
生き残るための術(すべ)として、最も大事なのは、「ことが起こって、脳が緊張したとき」どうするかだ。すなわち、「脳が緊張したとき、脳がとっさに選ぶ神経回路」が、感性の基本回路なのである。
この回路は、大きく分けて、二つしかない。
「欠点を見つけ出す」ことによって「すばやい問題解決」を生み出し、「有事の危機対応力を上げる回路」と、「共感し合う」ことによって「深い気づき」を生み出し、「平時の危機回避力を上げる回路」と。
この脳の二軸から勘案するに、危機回避力と危機対応力、この二つが、生物の生存可能性を上げる究極の二機能なのだろう。
著=黒川伊保子/「コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する」(PHP研究所)
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Information
『コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する』
職場での行き違いや夫婦の仲違いが生まれる前に、多く発生しているのが男女のコミュニケーション・ストレス。その発生する仕組みやギャップを乗り越えるヒントをまとめた教科書が登場しました。『妻のトリセツ』が大ベストセラーとなった人工知能研究者が、メーカーで人工知能(AI)開発に携わったキャリアを生かして著した、コミュニケーションテキストの決定版です。
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