荒野で育った男性脳と井戸端会議で進化した女性脳 男女のミゾを科学する(5)
「ちゃんと言ったのに!」
「悩みを相談したのに冷たい!」
夫と話すとイライラするのは、男女間で脳の使い方に差があるからだった!?
ベストセラー『妻のトリセツ』で話題の人工知能研究者・黒川伊保子さんが、夫婦間で発生しがちな「男女のミゾ」の発生機序をやさしく紐解く『コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する』(PHP新書)。
夫婦間、家族間、友人同士や恋人同士、あるいは職場の同僚間でも、今日から使える対話のルールが多数紹介されています。
21世紀随一のコミュニケーションの教科書から、一部抜粋したものを全8回でお届けします。今回は第5回目です。
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脳は、あらかじめ「とっさに使う側」を決めている
干渉し合う競合機能がペアで脳の中に内在するとき、脳は、あらかじめ「とっさに使う側」を決めておかないと危ない。
たとえば、利き手がなかったら、どうだろう。
脳が、右半身と左半身をまったくイーブン(同等)に感覚認知してしまったら、身体の真ん中に飛んでくる石をとっさに避けられない。「どちらに避ければいいのか」の計算がなかなか収束しないからだ。石の方だって、左右に微妙にぶれているし落ちてくるものをつかむのも一緒である。落ちてくるものを目視してから、右手を出すか左手か、どちらの回転角が少なくて済むかなんて計算していたら、神経系の処理は間に合わない。
転ぶときも同様だ。とっさに出す手、とっさに引く側が決まっているからこそ、ヒトは、危険物を避け、獲物をつかみ取り、転んでも大けがをしない。逆に言えば、利き手のない人類は生き残れないのである。その証拠に、利き手のない人類はいないはずだ。
男女の感性が真っ二つに分かれた理由
同様に、脳が緊張した瞬間に、危機回避力を使うか、危機対応力を使うかを迷うのは危ない。
荒野で危険な目に遭いながら進化してきた男性脳は、とっさに危機対応力を使う。
仲間の欠点を躊躇(ちゅうちょ)なく指摘して、命を救うコミュニケーションである。沼に踏み出そうとしている人間に、共感している暇はないからだ。
一方、哺乳類のメスである女性は、女同士の密なコミュニケーションの中で、おっぱいを融通し合い、子育ての知恵を出し合って、系全体の生存可能性を上げてきた。
こちらは、とっさに共感し合い、危機回避能力を使うほうが生き残れるのである。仲間の欠点を躊躇なく指摘して、事を荒立てたり、戦いに勝って、恐れられて遠巻きにされてしまったら、おっぱいを融通してもらえなくなり、ちょっとした暮らしの知恵をもらえなくなって、一気に生存可能性が下がってしまう。
何万年にもわたって、躊躇なく仲間を正してきた男性が生き残り、とっさに共感し合える女性が多く子孫を残してきたのである。その果てに21世紀の男女がいる。男女の「とっさの感性回路の使い方」が二手に分かれるのも、なんら不思議はない。
むしろ、何万年も生存戦略が違ってきた二つの脳の感性を「変わらない」という根拠のほうが、私には見つけられない。
著=黒川伊保子/「コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する」(PHP研究所)
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『コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する』
職場での行き違いや夫婦の仲違いが生まれる前に、多く発生しているのが男女のコミュニケーション・ストレス。その発生する仕組みやギャップを乗り越えるヒントをまとめた教科書が登場しました。『妻のトリセツ』が大ベストセラーとなった人工知能研究者が、メーカーで人工知能(AI)開発に携わったキャリアを生かして著した、コミュニケーションテキストの決定版です。
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