自分の小さな「変化」に気付くことが大事!更年期以降を元気に過ごすためのヒント
「漢方は体に良さそう」とは思いつつも、ちょっと難しそうでハードルが高いと感じている人も多いのではないでしょうか? でも実は、漢方・中医学は私たちの生活に密着した身近なもの。歳を重ねるにつれ増える「もやもや不調」にとっても、非常に頼りになる存在です。そこで、自身も体の不調から漢方・中医学に興味を持ち、資格を取得するほどその魅力にはまったレタスクラブの前田編集長が、薬学博士の陳志清(ちん・しせい)先生と漢方談義。漢方・中医学について知りたいことをいろいろ聞きました。
薬学博士 陳志清(ちん・しせい)先生
イスクラ産業代表取締役社長。南京中医薬大学卒業後、陜西中医薬大学大学院修了。1993年に来日、2002年広島大学大学院で薬学博士学位を取得。日本中医薬研究会専任講師、日本不妊カウンセリング学会理事、世界中医薬学会連合会監事会副主席。
レタスクラブ編集長 前田雅子
生活情報ジャンルの編集歴20年。2019年8月から『レタスクラブ』編集長を務める。6歳男児の子育て中。仕事、育児、家事でバタバタの毎日を送るなか、へとへとでも作れるレシピを日々模索中。
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前田編集長:漢方や中医学にはすごく興味があって、実は漢方のスクールに2年ほど通っていたこともあるんです。子どもの頃から目が弱く、アレルギー症状が出たら点眼を繰り返していたのですが、なかなか良くならなくて…。対症療法に限界を感じ、もっと根本的に体質を改善したいと思ったのが漢方・中医学を学び始めたきっかけです。もともと鍼やお灸に効果を感じるタイプだったこともあり、患部ではなく離れたところに刺激を与えて治療するという点に面白さを感じていたのですが、基礎から学んだことで、体はもちろん心もすべて繋がっていることを改めて実感しました。
陳先生:まさにそれが中医学的な考え方です。目のトラブルを治すには、目だけを診ればいいかというとそうじゃない。目も体の一部なので、体の状況を全体的に整えてあげる必要があるんです。局部的な症状でも全体的に捉えて対応していくことが大事です。
前田編集長:漢方薬局でのカウンセリングでも、患部の症状だけはなくて、メンタル面や生活状況までトータルに質問してくださいますよね。「現在の心や体の状態がこうだから、目に症状が出てたんだ」とか「ここが痛いのも関係してたのか」とか、いろんな気づきがあって、腑に落ちました。
陳先生:中医学では「心身一如(しんしんいちにょ)」といって、心と体は切り離すことのできないひとつのものと考えられています。そもそも「病気」とは「気の病」と書くように、精神的なものが深く関わっています。そのため、本人の感覚というのがすごく大事。例えば、検査をしてどこにも問題がなかったとしても、本人が辛い症状を感じていたら、それは健康とは言えませんよね。健康とは体が元気というだけではなく、肉体的にも精神的にも社会的にも満たされている状態のこと。現在ではWHO(世界保健機関)でもそのように定義づけられるようになりましたが、中医学では何千年も前から存在していた基本理論です。
前田編集長:そんな昔から現代医学にも通じる考え方を確立していたなんて、中医学って本当に奥が深いですよね。まだまだ勉強したてで知りたいことがたくさんあるので、今日はいろいろ質問させてください!
前田編集長:同じ症状で同じ薬を飲んでも、効く人と効かない人がいるのは何故なんでしょう?
陳先生:「漢方=薬」というイメージを持っている方も多いかもしれませんが、実はより重要なのは養生や生活習慣のほう。自分の体質や体調を知り、それに合った養生をすることで、病気にならない未病のうちに改善することができます。例えば不眠で悩んでいるなら、まずは生活習慣を見直すことが第一。規則正しい睡眠習慣を身につけようとしなければ、いくら薬を飲んでも効果は得られないでしょう。
陳先生:それともうひとつ、病気というのは精神的なものも深く関わっているため、感情的な部分でも大きく左右されます。人間って不思議なもので、誰か信頼できる人から言われたことは受け入れられても、同じことを嫌いな人に言われたら受け入れられなかったりしますよね。そのため、カウンセリングする先生の話に納得できれば、気の持ち方も変わるため薬が効きやすくなりますが、納得できなければ薬が効かないというケースも。つまり、先生との相性によって、薬の効き方が違ってくることもあるんですよ。
前田編集長:面白いですね!
前田編集長:不調の多い40代女性が、予防目的で漢方をサプリ的に飲むという飲み方をしても良いのでしょうか?効果的な飲み方について教えてください。
陳先生:生薬には上品(じょうほん)、中品(ちゅうほん)、下品(げほん)の3種類があります。上品とは体に害がなく、常に摂って良いもの。いわゆる薬食同源といわれるもので、クコの実、ナツメ、山芋など、食事としても摂られているものがこれにあたります。対して中品は、必要な時に様子を見ながら摂るもの、下品は必要な時しか摂ってはいけないものになります。薬性が強かったり、毒性があったりするものもあるため、自己判断でサプリ的に摂り続けるのは危険。自分の体質や体調をみて、どんな漢方薬が必要なのかを専門家のアドバイスのもとで使うようにしましょう。「この状態をキープしたい」「こういった不安がある」など、気軽に漢方薬局に相談してもらって大丈夫ですよ。
前田編集長:クコの実は目に良いと聞いてから、摂るようにしています。美味しくて手軽に食事に取り入れられるのも魅力です。
陳先生:クコは中医学では目をつかさどっている五臓の肝に良いとされています。肝は元気の源である血液を蓄える場所でもあるため、肝を補うことで髪もキレイになるし、肌つやも良くなるんですよ。
前田編集長:陳先生は肌つやも良くてとても若々しく見えますが、普段どのような養生を心がけていますか?
陳先生:私ですか⁉ 実はあまりしてないです(笑)。強いていうなら、時間がある時は散歩するなど、できるだけ体を動かすことでしょうか。ずっと頭を使ってると、精神的にも疲れてしまい夜も眠れなくなるので、体も使うよう心がけていますね。体力を消耗することで体が疲れると、睡眠の質も良くなるんですよ。あとは、私はもともと胃腸が弱いため、カフェイン、冷たいもの、脂っこいものなど、刺激の強いものや消化しにくいものはあまり摂らないようにしています。実は漢方的な考え方で最も大事とされているのが胃腸。これから気温が上がってくると、冷たい飲み物を飲む機会も増えるようになるかと思いますが、胃腸への負担が大きいので、冷えたものより常温のもののほうがおすすめです。実践してることといったらそれくらい。ホントにあまり養生してないですね(笑)。
前田編集長:すごくストイックにやってらっしゃったら何もマネできないと思っていたんですが、できる範囲で散歩したりとか、ちょっと食事に気をつけるとか、そういうところから始められそうです。
陳先生:みんな現実の中で生活してますので、理想ばかりを求めても無理なんですよね。これができたら、あれができたらって理想を挙げたらきりがないけど、頭の中であれこれ考えるよりも行動が大事です。人それぞれの環境において、できることから始めればいいと思います。
前田編集長:人生100年と言われる今、年をとっても元気に過ごしたいもの。40代になり年齢的にも衰えを感じ始めているのですが、更年期をうまく乗り越え、この先ずっと元気で過ごすためのアドバイスをお願いします。
陳先生:中医学では「腎が命の根本」と考えられています。中医学における腎は、単に腎臓というだけでなく、親からもらった命のもとのことで、このもとがなければ人は成長できません。会社に例えるなら、腎は資本のようなもの。会社を立ち上げるのには資本が必要ですが、資本は使うと減っていくので、それを活かして増やしていかなければ会社は続けられませんよね。人間も同じで、親からもらった腎だけでは、成長はしても長生きはできません。そのため、食養生などで後天的に腎を補い守ることが大事になります。
前田編集長:最近、出版業界でも「腎活」という言葉が注目され始めていますが、腎を守ることで体にどんなメリットがあるのでしょう?
陳先生:腎は五臓六腑すべてを支えていますが、中でも最も密接な関わりがあるのは脳。腎がつかさどっている骨(骨髄)は脳髄と繋がっているため、脳、耳、骨などもすべて腎がつかさどっています。他にも生殖機能やホルモン、目とも関係が深いです。先程、目は肝がつかさどるという話をしましたが、実は腎と肝は親子の関係。腎が弱まれば肝も弱まります。年をとると、骨が弱くなるのも、歯が抜けるのも、耳が遠くなるのも、視力が落ちるのも、シミ、シワ、白髪などが増えるのも、全て腎が弱まるため。補腎してあげることで、骨、耳、目、歯が強くなるし、肌や髪もキレイになりますよ。
前田編集長:いいことづくめですね! 腎を守るには具体的にどんなことをすればいいですか?
陳先生:まず大切なのは食習慣です。腎を補う食材はたくさんありますが、実は腎の中には陰と陽の両方が存在していて、この陰陽バランスがとても重要。腎の陰を補うものとしては、クコの実、黒ごま、牡蠣など、腎の陽を補うものとしては、くるみ、えび、にらなどがあります。どちらか片方だけを補うと偏ってしまうため、自分の体質や季節による体の変化に合わせながら、自分に足りないものを選びましょう。
陳先生:補腎には睡眠習慣も大切です。睡眠中は腎の陰が成長し、女性ホルモンが分泌されるため、夜更かしするとホルモンバランスが崩れ、肌の乾燥や更年期症状の悪化を招くことにも繋がります。また、腎は体内の老廃物の排出も担っているため、運動で汗をかいたり血流を回すことも大事。老廃物の排出が進むことで腎の負担が軽減し、腎機能がアップします。
前田編集長:食事、睡眠、運動と、やはり生活習慣が大事なんですね。更年期に備え、補腎のほかに注意すべきポイントはありますか?
陳先生:女性の場合は補血作用のあるものを摂ることも大事。血液には、体に潤いを与えたり、栄養を運んだりする役割がありますが、女性はその一生の中で、自分の体重と同じ位の血液を月経により消耗しています。そのため、血液をタイムリーに補ってあげないと、更年期のときに影響が出やすくなるのです。クコの実、ナツメ、ほうれんそう、トマト、肉類、卵などの血液を補うものを早いうちから意識的に摂るのが更年期対策としても有効ですよ。中医学は難しいと思われがちですが、実はその考え方って生活に密着した身近なものなんです。食養生や生活習慣の改善など、自分でできる部分が結構多いので、やれることから始めてもらえたらいいと思います。何もしないで漢方薬だけ飲んでもあまり効果は期待できません。やることをやったうえでの漢方薬です。
前田編集長:なるべく歩くとか、できることから早速始めてみようと思います。今日はありがとうございました。
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漢方・中医学は難しそうとつい敬遠してしまいがちですが、体質や性格、生活環境などすべてを考慮し、その人の全体をみるという考え方がベースにあるので、実は私たちの生活にとても身近な存在なのかもしれません。漢方や中医学に興味を持つと、自分の心と体に自然に目が向くもの。自分のことをもっと知り、これからも元気で健やかに過ごしていきたいですね。
撮影:松林真幸 文:酒詰明子
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