40代で身体の不調を感じ、ひそかに始めた「生前整理」。不要なものを捨てて得たものは【「私の生理のしまい方」作者インタビュー】
「最近ひどくなった偏頭痛のせいで寝込む日が増えた…これからどうなってしまうんだろう…?」
閉経の前後10年は、心にもやがかかったような不安と、これまでと違う体の不調に悩むという女性が多くなる「更年期」といわれる時期。
そうした女性の不調について、実際の大人女性から募った体験談をマンガ化した『私の生理のしまい方』は、イラストレーター・原あいみさんによる更年期世代のリアル体験記です。
この作品の中で、夫や家族に理解してほしいけれど、自分でも原因が分からない偏頭痛や湿疹といった心身の不調に悩んだ体験を語ったのは、編集者のさおりさん。今回はこのエピソードをテーマに、作者の原さんにお話を伺いました。
【さおりさんのケース】夫と娘のために行った「生前整理」
さおりさんは、46歳の夫と小学5年生の娘さんとの3人暮らし。43歳という年齢なりの白髪や顔のシミといった老化現象には、気づきつつもスルーしていました。
しかしほどなくして、生活に支障をきたすほどの偏頭痛が彼女を襲いました。
これまで問題なかった生理にも変化があったり、原因不明の湿疹もできたことで、不安にさいなまれるように。
編集者仲間の助言に従ってアプリに頭痛を記録したことで、偏頭痛の起きるタイミングと原因は分かりましたが、それで頭痛がなくなるかわけではありません。
寝込んでしまって、塾に行く娘のサポートすらままならないできない日が続きます。
そんなドン底だったさおりさんを救ったのは「読書」でした。
頭痛のためスマホの画面を見るのが辛くなった彼女は、いままでSNSに使っていた時間を読書にあてることにしたのです。
図書館で借りた本で一生のうちに起きる女性の体の変化を学ぶことが、今後の自分の生き方を考えるきっかけになりました。
そうしてさおりさんが始めたのが「生前整理」。
自分が寝込んだときにできなくなる「仕事」と「家族のごはん」に焦点を当てて、自分以外の誰かができるようにしくみ化していきました。
それに加えて、毎月少しずつ不要なものを捨て続けるという生前整理を約1年続けたのです。
その結果、部屋も使いやすく整理整頓され、さおりさんの心身も晴れやかに。
さおりさんはこのときの心境を「自分に戻った」「私は自由だ」と表現しています。
「仕事も育児も中途半端が一番辛い」作者インタビュー
――偏頭痛で寝込んでしまったさおりさんが、「あれもこれもできてない」と落ち込む気持ちがすごくよく分かりました。このようなさおりさんの心情に対してどう思いましたか?
原さん
「私自身が未就学児育児をしながら仕事復帰をして毎日必死だった時に、仕事も育児もどっちも中途半端!ともどかしさを感じたことを思い出しました。何か一つでも思い切りやれていたら、家事は多少できてなくてもいいか、と諦められると思いますが、どれもできてないという状況が一番辛い…と共感しました。自分にも『寿命がある』とリアルに感じたというお話が特に『まさに私もです!』と強く思いました」
――単なる断捨離ではなく「生前整理」であることに、さおりさんのご家族への愛情を感じました。もし原さんが生前整理をなさるとしたら、どのような整理をしたいと思われますか?
原さん
「少し前に実際にやったのですが、保険の見直しをしました。娘が生まれたときに一度整理をしたのですが、当時一生懸命考えてあれこれ選択したのに、まったく覚えていなかったんです!
あらためて、どういう意図で選んだのか、いまでも必要か、など確認作業をして表にまとめたらスッキリしました。こういう目には見えていない物事を整理するのも、密かな生前整理かもしれないなと感じました。次は、さおりさんのように目に見えている物を減らしたいです」
――「生前整理」でSNSを整理する、という行為が非常に現代的だなと思いました。原さんご自身は、今後に向けてSNSとどのように向き合っていこうと思っていますか?
原さん
「仕事柄SNSは欠かせないので、可能な限り続けたいと思っていますし、新しいものが登場したら、無理のない範囲でチェックはしたいと思っています。が、SNSの情報に疲れていないか、発信活動に振り回されていないか、時々冷静に立ち止まって、楽しくないと感じたらすっぱりと辞める決断もできるようにしたいと思います」
――さおりさんのケースでは、生前整理したことが、結果として身体的な症状にもいい影響を及ぼしていましたね。生前整理後のさおりさんの「自分に戻った」「私は自由」という心境について、原さんはどのようにとらえましたか?
原さん
「やらないことを決め、物事を整理したさおりさんは一旦リセットができたのだと感じました。ここから、また増やしたいものがあれば増やしてもいいし、もしかしたら、新たにフォローするSNSもあるかもしれません。生前整理できたからこそ、これをキープするのが『必須』ではなくて、そこからまた自分の好きなように選べる、という自由さを手に入れられたのだととらえました。『肉を巻くも巻かぬも私の自由〜』と楽しそうに歌っている姿で、そんなさおりさんの心境を表現しました」
***
自身の体調の変化に向き合いながら「生前整理」を行うことにしたさおりさん。それが結果として彼女の心と体のバランスを整えるきっかけになったようです。
医療の力だけでなく、自分と家族との関係性を見つめなおすことも、更年期の乗り越え方なんだと気づかせてくれるエピソードですね。
取材・文=山上由利子
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