「お母さんがおかしくなった」母の排泄物が入ったレジ袋を投げ捨て…小学生ヤングケアラーの壮絶体験と母の最期【48歳で認知症になった母 結末とネタバレ】

#くらし   

作者インタビュー

この作品の原作者である美齊津康弘(みさいづやすひろ)さんにお話を伺いました。

──ご自身の経験がもとになった漫画『48歳で認知症になった母』に対して、どのような反応が寄せられていますか?

美齊津さん:「壮絶でした」「読んでいて苦しくなりました」などの意見が多く、驚きました。私自身、自分の体験を「壮絶」と感じたことはなかったからです。私にとっては、この漫画の内容が私の人生そのものであって、何とかその中で対応しながら生活していかざるを得ない状況でしたので、私にとっては「壮絶」ではなく「日常」でした。だからとても驚いた感想でした。

お母さんがおかしくなっちゃった…

──大好きだったお母様を介護しながら変わっていく様を目の当たりにしなければならなかったというのは非常に辛かったのではないかと想像します。特に辛かったこと、そしてその時の感情や思いについてうかがえますでしょうか。

美齊津さん:特に辛かったのは徘徊している母の手をひいて家に帰る時、近所の人たちに陰で笑われているような気がして、うつむきながら隠れるように歩いたことですね。
また、学校から帰ってきたら母の排泄物が洗面台のパイプに詰まっていて、それを掻き出していた時、母と自分だけが世の中から取り残されて見捨てられてしまったような気がして、惨めで涙が止まらなくなりました。

トイレの時間


──現在課題となっている「ヤングケアラーへの支援」ですが、体験者としてどう考えられていますか。

美齊津さん:当時もしも1人でも話を聞いてくれる味方と感じられる人がいたとしたら、私もあれほど苦しむ事はなかったのではないかと思っています。
ヤングケアラーの中には、孤独の中で希望を持てなくなってしまう子が大勢いるのです。
でも、将来のためにも、再び自分の足で前進していける強さを持ってほしい。そのためには、とにかく今この時を、諦めることなく乗り切ることが大切なのです。
じっと耐えているたくさんのヤングケアラーが身近にいる事を知って頂き、もし自分の身の回りにそのような子どもがいたら、声をかけてあげて、彼らの「味方」になっていただければと思います。


最後に

いま社会問題となっている「ヤングケラー」ですが、そうした方々の実情やお気持ちを実際に知る機会は少ないと思います。美齊津さんの実体験がもとになったこの漫画の数々のエピソードは、読んでいるだけで胸が苦しくなるような出来事ばかりです。
でも、そうした体験を乗り越えて自分の足で前向きに進んでいくことを決めた美齊津さんの強さ。そして美齊津さんが、あれだけ苦労したにもかかわらず、母への感謝の気持ちを持ち続けているということに、心を打たれました。

当時と比べれば、認知症という病気やヤングケアラーの方々への理解は進んでいるかもしれません。
でもいまもなお、介護に関して、辛い思いをしている方々はたくさんいるんですよね。当事者にならないと見えづらいこうした現実に、この漫画を通して少し触れることができました。

もし今後、介護で苦しんでいる方に出会ったなら、できる限り関心を向けて、気持ちに寄り添えるような人間でありたい、そう決意させてくれる作品でした。

※本記事は美齊津康弘・原案、吉田美紀子・漫画の書籍『48歳で認知症になった母』から一部抜粋・編集しました。

文=山上由利子

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